LSEで受講した各授業の担当教員・内容・所感

1. Social Policy and Development (Core Concepts)

Lecture担当:David Lewis, Armine Ishkanian, Anthony Hall, Hakan Seckinelgin, Timothy Hildebrandt

Seminar担当:Armine Ishkanian, Anthony Hall, Hakan Seckinelgin, Timothy Hildebrandt

教員:

David Lewisは人類学が元々の専門だが、市民社会研究の分野で長く研究を続けてきた研究者。市民社会組織の経営や開発におけるNGOの役割に関する研究を主にしている。研究のベースは南アジアで中でも特にバングラデシュとのつながりが強い。頻繁にバングラを訪れて研究活動を行っている。また、東日本大震災の後には岩手県遠野を訪れて市民社会が震災後の活動や日本の市民社会の特徴に関するレポートを書いている。市民社会研究の第一人者の一人で、日本の学術誌に掲載されている論文にも彼の文献の引用が多くみられる。市民社会関連の教科書的文献の執筆を長く担当している。Department of Social Policyの学部長。

Armine Ishkanianはアルメニア出身、アメリカで育った人物で、LSEのCivil Society研究の中心人物の一人。市民社会論、市民権、人権などの講義を担当している。講義のためにかなり準備をしているようで、毎回lectureが面白く解りやすい。seminarも試験やessayで学生が議論できるように構成・進行しているように感じられた。

Anthony Hallは世界銀行が行うラテンアメリカにおける社会政策にかなり関わってきた人物。ラテンアメリカからの留学生はほとんどの場合、世銀の社会政策が地元の人々にとって必ずしもプラスに働いてきていないと考えているため、lectureやseminarでは学生たちから厳しい批判の声を浴びることも多かった。

Hakan Seckinelginは、教員の中ではもっとも雑なスライドを準備してくるが、素晴らしい講義をすることに定評がある。LectureでもSeminarでも、学生たちに自由に議論できる雰囲気をつくり、学生からの質問や問題提起に対して共に考えるというスタイルで、生きた議論をしている感覚が常にあった。学生に対しても自信に対しても学術的な要求水準は高い。市民社会関連やLGBT、世界レベルでの社会政策の導入に関する研究をしている。

Timothy Hildebrandtは、中国の市民社会、というおそらく市民社会業界では新しい分野の研究をしている。講義内容とスライドがかなり解りやすく構成されていて、トピックの概要を理解するためにはかなり参考になる。また、exam前の振り返りがかなりやりやすい。彼自身はアメリカ人なので、中国の市民社会に関して講義していると、よく中国の社会に通じている中国人学生から厳しい質問が飛ぶこともあって、それが講義を面白くしていた。

 

内容・所感:いわゆる途上国における社会政策の策定・施行における諸課題を論じる。キーワード:福祉国家論(Esping-Andersen, Gough and Wood他)、社会政策、policy process in Global South、evidence-based policy making、power and (development) policies、government-market-civil society、approaches (human rights, etc.)

これは、MSc Social Policy and DevelopmentのCore Courseになるもの。これは教員たちがオリエンテーションで言っていたことだが、基本的に各プログラムのCoreになるものは、そのプログラムにとって必須の内容を含むとともに、他のプログラムの学生がOptionで取るとすれば比較的難解になる。自分が受けてみた感想と他の学生からの情報を総合すると、同プログラムの学生にとっては、授業内容やseminarの内容的には難しい感じは特にないが、評価は選択科目より厳しかった、という感じ。それと、他のプログラムから選択で取りにきている学生にとっては、聞き慣れない内容が含まれているので理解が困難な部分もある、という感じ。

 

2.Social Policy and Development (States)

Lecture担当: Armine Ishkanian, Anthony Hall, Hakan Seckinelgin, Timothy Hildebrandt

Seminar担当:Armine Ishkanian, Anthony Hall, Hakan Seckinelgin, Timothy Hildebrandt

内容・所感:社会政策を二国間援助、多国間援助、NGOによる支援などを受ける国で、どのように立案・実施していくかを、政府からの視点をメインにして論じる。トピック・キーワード:regulatory states、地方分権、市民権、コンフリクト、汚職、移民、社会保障、気候変動

これは、State(政府)サイドから社会政策と開発を見るというもので、世銀の融資を受けて行われてきた政策の到達点や課題について論じたり、地方分権・移民・市民権などの概念から考察し、政策分析や政策形成に役立てていく。印象に残っているのは、地方分権の分析フレームや実際の例を扱った回。地方分権すれば良い、という論がそれぞれの国の社会・文化的環境などによってそう簡単に通らないのは当然なように思えるが、地方分権は良い結果をもたらす、というdiscourseがかなりの影響力を持って、地方分権の名のもとに中央政府から地方への責任委譲ややprivatizationが行われたようだ。また、いわゆる先進国ではほとんど論じられることのない移民を送り出す国が直面する課題などについて議論したのも興味深かった。開発に関するプログラムに在籍していてもこうした面に目を向けた論文にはほとんど出会わなかった。この研究の少なさが移民により発生する社会問題をGlobal Northにおける問題に矮小化している可能性は否定できないだろう。今後より研究が進められるべき分野だろう。さらに、トピックの一つである気候変動の問題は、世界的にはSDG(Sustainable Development Goals)の策定過程・策定を契機として世界的なagendaになったという見方をされるが、こうしたagendaがこれからの15年間で開発途上にある国で引き起こすであろう問題を予見させるような内容を含んでいたのも興味深かった。

 

3.Social Policy and Development (NGOs)

Lecture担当:David Lewis, Armine Ishkanian, Hakan Seckinelgin, Timothy Hildebrandt

Seminar担当:Armine Ishkanian, Timothy Hildebrandt

内容・所感:社会政策を二国間援助、多国間援助、NGOによる支援などを受ける国で、どのように立案・実施していくかを、市民社会からの視点をメインにして論じる。トピック・キーワード:サービスプロバイダー、人道主義、アドボカシー、経営とリーダーシップ、ボランティアリズムとプロフェッショナリズム、ステークホルダーマネジメント、NGOと公共。

政府・市場・市民社会という3つのプレイヤー・制度が社会を形成していくと考えた場合、途上国では地元および海外の市民社会の影響を、先進国社会よりもより強く受ける。そのため、市民社会の役割や社会における位置づけ・規制などが、先進国における研究をもとにするだけでは十分に理解できない。途上国における政治的、資源的な制約を考慮しつつ、政府を補完したり、代替したりするNGOが社会開発に果たす役割や、それを促進・規制する政策の在り方について議論する。授業を受けていると、NGO研究で先端を行く研究機関の一つとされるLSEでも、また、米国などの研究機関等でも、学びに来ている実務家や学生たちを満足させるような研究成果を得ているとは言い難い実情だと感じた。これは、教えられる方としては残念という見方があるかもしれないが、一方で、研究分野として未開拓であり、我々にとってはやりがいのある分野、今後研究面で貢献していくべき分野だと捉えられる。

 

4.Social Security Policies

Lecture担当:Kitty Stewart

Seminar担当:Kitty Stewart

教員:Kitty Stewartは経済学のバックグラウンドを持つ社会保障研究者。社会政策・資源の分配と子どもの能力形成の関連などについて研究している。

seminarが特徴的で、16人のセミナー参加者を4つのグループに分け、それぞれに対して関連トピックに関する文献とポジションを与える。それにもとづいて学生は文献を読み、どのように論じられるか考え準備する。Seminarは初め4人グループで与えられたポジションからどのように論じられるかを話し合い、その後、各グループの代表者が発表。それに対してKittyや他のグループも交えて議論するというもの。これによって、seminarを通じて4つのポジションから論じる手がかりを得ることができる。

seminarでは、毎回二人に10分程度のプレゼンテーションが割り当てられる。これはかなりプレゼンテーション能力の向上、英語力の向上に役立つと思う。学部から修士に直で来ている人などは、seminarで雄弁であっても、プレゼンになると途端に大したことない感じになることもあったりする。英語のPresessional から通じてみていると、日本人は他国からの学生に比べると学術的なプレゼンテーションが上手な方に入ると思う。グラフや図を用いて口述と視覚情報の提示などを駆使して理解を促すのが当たり前のようにできているし、構成も良く練られていた。ただ、これが必ずしも学術的成果においても同様かというとそうではないのかもしれない。seminarのプレゼンは評価対象ではない。そのためそこには労力を割かず、点数になる別のところに資源を投入したり、私生活を充実させているのかもしれない。

4つのポジションの例は以下の通り。

Week 5 CHILDREN

Seminar: November 6

A: Child benefit (child allowances) should be universal.

B: Child benefits need to be targeted to ensure they can make a difference to those in need.

C: Conditional cash transfers are an effective way of promoting child development, giving

taxpayers best value for money.

D: Attaching conditions to cash transfer receipt is stigmatising, unnecessary and can be

damaging to children.

 

内容・所感:社会保障政策について、イギリス+OECD諸国における政策を中心に、トピックによっては中南米や東アジアのケースも参照しながら議論する。トピック・キーワード:universalism/selectivism/social insurance、雇用、子ども、障害と病気、年金、ジェンダー、移民と民族的多様性、アドミニストレーションとスティグマ、社会保障の未来

学部生時代に社会保障の授業を受けていたが、それと比べると、扱っている国の多さ、アドミニストレーションに関する事項の分析・比較、経済効率への着目、といった点で日本における社会保障論とは違いがあるのではないかと感じた。扱っている社会保障制度は、開発関連科目に比べれば圧倒的に英国、OECDに偏るが、それ以外にも南米を中心とする国々の例も取り上げており、特定の制度・レジームが良いと一概には言えないことがlectureやseminarの議論を通じてわかってくる。指導者のKittyは厳しくも優しい人物。seminarや講義では学生に高いハードルを課していた一方で、授業の内容については学生がより良く学べるよう常に配慮している様子がうかがえた。また、忙しい中どの教員よりも早く返してくるEssayへのフィードバックが丁寧で、かつコメントの中に優しさを感じるものだった。lectureでは、英国やOECDのデータを自身で分析したものを出してきて、いつでも新鮮な発見があったし、いつでも社会課題の解決に向けた情熱を感じた。一般市民向けのpublic lectureにも同じような姿勢で取り組んでいて、参加者に熱く語りかけ、議論を交わしているのが印象的だった。

学部生時代に社会保障を指導してくださった先生も、情熱的で学生おもいで社会をより良くすることを考えている方だった。こうした先生方に恵まれた自分は幸運だ。

 

5.Social Advantage and Disadvantage

Lecture担当:Hartley Dean, Lucinda Platt, Kitty Stewart, Sonia Exley, Neil Lee, Isabel Shutes, Tim Newburn

Seminar担当:Hartley Dean, Lucinda Platt

教員:

Hartley DeanはLSEのDepartment of Social Policyを代表する研究者で、主要な研究分野は、社会政策の基礎理論、市民権、社会的権利など。もともとソーシャルワーカーだった人物。私は彼のseminarを受けたことがないのでわからないが、彼のセミナーは素晴らしい、という話を友人から聞いたことがある。入学前から、この先生が社会政策についてしゃべっている動画を見ていて、チャンスがあれば授業を受けたいと思っていた。

Lucinda Plattは、社会的経済的な不平等や有利不利と社会政策について主に研究している。seminarでは、トピックに関する議論が終わった後に、関連の資料を使ってさらに学生の理解を深めたり、応用力を高めようとしているように感じられた。ちょっと空気を読めずに場を乱す学生に対して、グサリと釘を刺す強さを持つ。

 

内容・所感:これは、社会政策が形成する社会的な「有利・不利」を分析し議論する。それを、より社会的な不利を生まない社会政策形成に役立てようというもの。トピック・キーワード:有利・不利の要素、収入と資産の不平等、家族、教育、場所、移民、労働市場、犯罪

従来、社会的な平等・不平等といった切り口の授業はあったが、有利・不利というのは新しい切り口で、テキストは講義担当教員たちによって書かれて出来上がったばかりのものを使用した。新しい分野のためか、講義担当の教員たちが、それぞれの専門分野を社会的な有利・不利という切り口から新たに分析して持ってきている感があり、学術的なライブ感のある講義だった。今後どのように展開するかわからないが、こうした新しい学問分野が生まれる現場に立ち会い、その議論に参加できるというのはなかなか無いと思う。

それから、このcourseの特徴は最後の週のseminarが、自由に形成したグループによるプレゼンテーション(コンペ)だったこと。通常セミナーの中で、持ち回りで個人か少人数でプレゼンテーションをすることは結構あるが、30名程度(セミナー2クラス分)が集まって全員が関わったプレゼン大会を行うのは稀。外国人と共にプレゼン(や仕事)をしたことがある方ならお分かりと思うが、何人で組んでもうまくまとめるのは難しい。私が所属したグループは人数が多めで8人構成だった。コンペでは7グループ中1位を獲得したが、途中から一部の人が離脱した状態になり後味が悪かった。

 

6.Globalisation and Social Policy

Lecture担当:Hakan Seckinelgin

Seminar担当:Hakan Seckinelgin

内容・所感:人・モノ・カネ・企業・情報・政策等のグローバリゼーションによって発生している社会課題に対して、どのような社会政策が可能かを論じるもの。政府・国際機関・NGO・企業など、様々なアクターによってどのようなアクションが取られてきたか、また今後の政策の可能性、各アクターを縛る制約等を検討する。トピック・キーワード:Globalisation、人々が抱える問題、アクター(IGO、NGO、政府、etc.)、Global Social Policy、Representation、Knowledge

シラバスの内容が魅力的、かつ教員も魅力的ということで、選んだcourseだが、実際受けてみると講義が案外難しかった。通常、他のcourseでlectureでやっていることは飛ばして、指導者が今研究していること・考察していることを突っ込んで解説しているという感じ。皆ポカンとしていることもしばしば。この授業向けにスタディグループを組織したが、その場でも「授業の内容が難しい」という話がしばしば出ていた。それでもseminarは学生の議論を喚起しながら行われ、トータルの満足度は高いcourseだった。一番印象に残っているのは、世界的な枠組みでの社会政策の現状や今後の展開についての議論。例えば、すでに航空券に課税してそれを感染症予防に使うという枠組みができてきているが、そうした政策には金持ちの国が強い影響を受けるような問題でないと進展がないという現状があり、こうした枠組みの拡大は前途多難に映る。これを打ち破るアイディアやknowledgeは出てくるのか、自分としてはかなり注目している。

 

7.Introduction to Quantitative Analysis

Lecture担当:Jonathan Jackson

Seminar担当:Department of Methodologyのスタッフ2名

教員:Jonathan Jacksonは、Criminologyを専門とするDepartment of Methodologyの教員。結構若い感じがしたが既にProfessorらしい。

内容・所感:定量分析について学ぶクラスで、統計の概念やSPSSを使った分析手法を学ぶ講義とそれを応用したSeminarで構成されている。教員がCriminologyが専門ということもあり、ロンドンの犯罪の発生率を、地区や犯罪者の属性毎の違いをもとに分析するというような演習も含まれていた。この授業はかなり受講者が多いようで、Seminarのクラスが8つあり、さらに前期・後期ともに同内容の授業が開講されている。全体的にevidence-basedを重視する流れからか、定量分析の授業関連の授業受講者は多いようだし、学校・学部としてもできるだけ多くの学生を受講させようとしているように感じられた。

 

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